Trish’s diary

英語の勉強法や日々のお役立ち情報の備忘録

寓話な物語『ハウス・ジャック・ビルト』

ラース・フォン・トリアー監督、マット・ディロン主演の映画『ハウス・ジャック・ビルト』(2018年)を、Huluで見つけたので視聴しました。この作品、前から気になっていたのですが、Huluで観られるとは思わなかった(あらゆる意味で万人受けしないと思うので…)。

 

観る人を選ぶことで知られる、悪名高きトリアー監督によるサイコ・ホラー映画、、、となれば、心して臨まなければなりません。体調の良い時に、恐る恐る視聴しました。

結果、思ったほどトラウマにならずによかった(どんな感想??)

全編通して、ナンセンスの嵐!これはホラーなのか、コメディなのか?

【ここからネタバレありです】

 

ストーリーは、12年間に60人もの人々を殺したシリアルキラーである主人公のジャックが、これまで犯してきた殺人にまつわるエピソードを、ヴァージという謎の人物相手に語る形で進んでいきます。

5つの事件が取り上げられるのですが、それぞれに突っ込みどころが満載です。

 

たとえば、、

事件① 人気のない山中で車のタイヤがパンクして困っている中年女性、車に乗せてくれたジャックを、なぜそんなに煽るの?(→結果、第一の犠牲者になります)

事件② 通りすがりにジャックに目を付けられたおばちゃん、警官を装って部屋に入ろうとするジャックをあんなに警戒していたのに、「実は警察ではないんです。保険調査員なんです。あなたの年金が2倍になりますよ」と聞いて、ころっと騙され、家に入れてしまう?

事件③ 子どもを連れたお母さん、ピクニック気分でそんな危ないツアーに参加してはいけません。

事件④ ジャックの友達(恋人未満)の女性、ジャックのことを相当怪しんでいるのか、部屋にたくさん鍵をつけていたけど、なぜか内側からロックされるシステム(どんな部屋?)

事件⑤ 銃販売店の店員、銃弾の種類が違うとキレるジャックに「交換しますが、レシートをおもちですか?」って、こだわるとこはそこ??そして、そんな使えない店員に怒りマックスになり、銃で撃ち殺すのかと思いきや、「もういい!」とばかりに店を飛び出すジャック・・・

 

が、この作品の肝は、設定のアラを探すのではなく(このゆるさがコメディっぽさを醸しているのだけど)、殺人鬼の心理を垣間見ることなのでしょう。

 

ということで、ジャックの心の中を想像するとー

事件① あんな女、誰でも殺したいだろ?

事件② 一度はじめたら、次もやりたいよね?(記念写真にも、こだわりたい)

事件③ 動物相手には、みんなやっているだろ?(俺には動物と人間の区別がないんだ)

事件④ 女嫌いだから、許して(監督談)。泣こうが叫ぼうが、大都会では誰も助けにきてくれないよ

事件⑤ 戦争中は正当化されていたことだろ(かのヒトラーに倣ったのだ)

 

そして、行くところまで行ったジャックは、念願の「家」を建てます。ただし、当初の計画とはだいぶ趣向の異なるものになったけれど・・・

 

すると、なんということでしょう

地獄の門が開きます。

 

ジャックはヴァージに導かれ、地の底へ堕ちていきます。

その途中で目にする、絵画のような現世の美しい草刈りの光景(ここだけは映画館で観たかった!)

 

ついにジャックは地獄に堕ちるのでした

(めでたしめでたし)

 

そして流れるエンディングテーマの爽快感 ←ジャックのしてきたことを思えば、みんなで大合唱したくなること間違いなし。

レイチャールズの「Hit the Road Jack」、こんなにぴったりの曲があるんですね)

 

まるで、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のような後味です。

 

トリアー監督らしい、寓話的な世界観の作品でした。

これを、現実世界の話として捉えるか、おとぎ話のように捉えるかによって、見方が変わる(観る人を選ぶといわれる所以)のでしょうね。

 

シリアルキラーの映画といえば「アメリカン・サイコ」を思い出します(主人公を演じるクリスチャン・ベールは、マット・ディロンとどことなく重なる雰囲気)が、ヨーロッパ(あのアンデルセンを生んだデンマーク)の監督が撮ると、このような芸術的な仕上がりになるんだなーと感心しました。

 

随所に挿入される絵画や音楽の知識があれば、なお一層奥深く鑑賞できるのでしょう。

なんというか、いつの世も変わらない「人間の業」を感じさせてくれる作品でした。